キラキラしてても皮肉とユーモアは忘れない

2017年は「ラ・ラ・ランド」に始まり、「美女と野獣」とキラキラしたミュージカルの公開が続いていますが、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」もニューヨークやパリ、イタリアが舞台のキラキラしたミュージカルです。ニューヨークに住む裕福な弁護士一家と彼らを取り巻く人々の恋模様が様々な角度から描かれます。

キラキラしたミュージカルといっても、そこはあくまでウディ・アレン大先生の作品です。恋愛の始まりと終わりを現実感たっぷりに、そしてシュールなユーモアをちりばめながら描いてくれています。

「映画なんだから描かなくてもいいのに」と思うような人間の悲しいサガを丁寧に描いてくれるウディ・アレンの映画は大好きです。

誰かを好きになったらもうその人しか見えない!私捨てられたら生きていけない!のだけれど、数年経てば別の人を好きになっている。人間関係は痛みを伴いながら、くっついては別れ、離れては近付くを繰り返す。ウディ・アレンの映画を観た後は「人間そんなもんですよね」という感想がいつも私の頭の中を駆け巡ります。

「ユー・ガット・メール」や「ノッティングヒルの恋人」のようなハリウッドの素敵な恋愛映画も大好きですが、甘すぎるのに少々疲れることもあります。そんなとき、人生や恋愛の痛みに悶え苦しみ悲観しまくったあげく、皮肉や笑いに昇華することに成功したウディ・アレンの映画を観るのが個人的にはたまりません。プライベートでは色々言われていますが、ウディ・アレンはやっぱりすごい人です。

「世界中がアイ・ラヴ・ユー」は、ウディ・アレンの他の映画に比べると、インパクトはありません。「ふわふわしてキラキラして笑えて音楽がちょっと楽しい」がずっと続いて終わります。ただ、ミュージカル映画にありがちな俳優陣の腹の底からの大熱唱がなく、俳優陣が素人っぽい軽いノリで歌う感じは、シャレが効いてて好きでした。

そして、インパクトはないと言いつつも、突然歌い出すミュージカルの滑稽さと裕福な一家の生活の非現実感がマッチしている面白さはあります。このストーリーをあえてミュージカルにして、裕福な一家のキラキラした生活をより非現実的に皮肉っぽく描くことこそ、ウディ・アレンの真の狙いだったのではと感じます。

出演者は豪華で、ジュリア・ロバーツにゴールディ・ホーン、ドリュー・バリモア、エドワード・ノートン、ナタリー・ポートマンなどが出演しています。ブラピにボコボコにされる前の優等生役がよく似合うエドワード・ノートンとひたすら可愛いナタリー・ポートマンを観るには最適の映画です。

場違いなティム・ロスが絶妙なスパイス

エドワード・ノートンとナタリー・ポートマンもいいのですが、個人的に一番印象に残ったのはティム・ロスです。

なぜ印象に残ったかというと、タランティーノの映画からそのまま出てきちゃったんじゃないか的な強面感が、キラキラ裕福な一家の家にものすごく場違いだったからです。しかも、他の出演者と同じく突然歌い出す。しかも、意外に綺麗な声。美味しすぎるだろ!っと心の中で突っ込んでしまいました。

「世界中がアイ・ラヴ・ユー」でのティム・ロスは刑務所から出所したてのワル役であるため、強面感は仕方ないんですが、他の出演者と雰囲気が違いすぎて映画の中で浮きまくります。しかし、その浮き方が半端でなく素敵でした。

そして、そのティム・ロスの雰囲気こそが、浮世離れしたキラキラ金持ち一家をグッと現実に引き戻す、絶妙なスパイスになっています。もしくは、絶妙な笑いになっています。

他の出演者に比べると出番は少ないのですが、ティム・ロスの存在感が強すぎて、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」を観た後には、「レザボア・ドッグス」か「パルプ・フィクション」を観たくなるかもしれません。「ハードコア」もそうでしたが、ティム・ロスのちょっと使いはずるいです。アクの強さにしびれます。

ミュージカル映画というと、「ラ・ラ・ランド」のように映像が美しかったり、「レ・ミゼラブル」のようにキャストの歌が素晴らしかったりする作品が多いです。しかし、「世界中がアイ・ラヴ・ユー」のように、あえてヘタウマ感のある歌、そして普通の映画とミュージカル映画の間のようなひねた演出をする映画も観る価値があると感じます。

豪華絢爛なミュージカルに少し飽きて、強面ティム・ロスの歌声が聴きたくなったら、ぜひご覧ください。

世界中がアイ・ラヴ・ユー(1997年/アメリカ)
監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン、ゴールディ・ホーン、アラン・アルダ、エドワード・ノートン、ドリュー・バリモア、ジュリア・ロバーツ、ナタリー・ポートマン、ティム・ロス他