宣伝とは全く違ういたって真面目な風刺映画

「イングロリアス・バスターズ」を彷彿とさせるブラッド・ピットの変顔に惹かれ、「ウォーマシーン:戦争は話術だ!」を観ました。

この作品は、Netflixで配信されている映画です。Netflixに契約していれば、新作映画が観れるなんてすごい時代になりました。

2009年司令官としてアフガニスタンに送られたマクマホン大将が、終わらない戦争に終止符を打ち、アフガニスタンを平和で自由な国にするため、米政権やアフガニスタンの大統領、マスコミの思惑に阻まれながらも奮闘する様を描きます。

Youtubeでこの作品の宣伝が流れているのを事前に観ていたのですが、ブラピの変顔がアップで出るコミカルなトーンの宣伝だったので、「イングロリアス・バスターズ」のしゃくれながら「グラッチェ」と言っているブラピを連想し、コメディタッチの作品なのかとワクワクしながら観始めました。

しかし、実際に観てビックリ。

コメディどころか笑うに笑えないというか、戦争の罪をひしひしと感じさせられる人間ドラマでした。

確かにブラピの変顔や走り方は奇妙だし、他にも笑える場面はあります。役が似合いすぎなベン・キングスレーとか、最後の最後に出てくる超大物俳優とか(オチとしては最高)。

しかし、それを抑えてしまうくらい戦争のもたらす悲惨さというか人間のエゴを思い起こさせられます。

映画として面白いかと聞かれればそうでもないのですが、世界に訴えかけるメッセージのある映画だと思います。

メッセージを訴えかける映画が、Netflixで配信されるというのが感慨深いです。インターネットがあり、Netflixに契約していれば、誰でも見ることができます。映画館で上映するよりも今やNetflixの方が観てくれる可能性が高いかもしれません。

主演だけでなく製作にも携わっているブラッド・ピットは、あえてこの作品をNetflix配信にしたのだろうかなんて考えてしまいました。

誰が悪役?終わらない戦争たる所以はここにあり

私がこの映画で一番気になったのは、いわゆる悪いやつがいないということです。

ストーリーをベースに順当に考えると、ブラッド・ピット演じるマクマホン大将が自分の勝ちにこだわって戦争を続ける悪いやつポジションなのかもしれませんが、どうしても悪いやつに見えない

国と部下と市民のことをいつも考えていて、彼が唱える理想は間違っていません。しかも、国に使い捨て感覚で扱われる兵士の悲哀も帯びています。

この作品における悪いやつを強いて言うならば、アメリカやアフガニスタンという国家なのかもしれません。マクマホン大将もその部下もアフガニスタンで戦う世界中の兵士達も、そしてアフガニスタンで暮らす武装勢力や市民もみんな国家の被害者というわけです。

しかし、じゃあ国家ってなんなんだと言われると、迷宮に入り込みそうになります。有力者なのか文化なのか国民性なのか。もしかしたらひっくるめて全部なのかもしれません。

アフガニスタンが終わらない戦争たる所以は、ここにある気がします。戦っている当事者にいわゆる悪いやつがいないのです。映画では、いとも簡単に実現する勧善懲悪は、当然ながら戦争では実現しません。

「理想と現実は違う」はある意味正しい

ブラッド・ピット演じるマクマホン大将は、この作品の中で確かに「おいおいおい」となる人です。理想に燃えるところはいいとして、現実が見えていません

そして、自分の理想を達成するために、現実における負けを認められず、多くの人を巻き込み、戦いを引き起こします。この作品では完全にイタイ人ですが、他の作品にいたらヒーローキャラなんじゃないかと感じさせるところがまた面白いです。

結局アメリカ映画のヒーローは、現実にいたら厄介な人なんではないかと。そして、そのヒーロー好きなアメリカ文化が何か弊害を引き起こしている部分もあるのではないかと感じられます。

ヒーロー映画は確かに観ていて面白いです。理想を目指すサクセスストーリーは、自分を重ねることでストレス発散!気分爽快!になれます。現実に置き換えて、自分も頑張ろうと思えるかもしれません。そこは何の問題もありません。しかし、現実の場合は、自分のエゴのためにただ理想を追いかけるだけでは問題が発生します。

「理想と現実は違うんだよ」

年配者が若輩者によく言うセリフですが、これはある意味真実です。しかし、それは「理想を諦めろ、現実を見て夢を追うな」という意味で真実ではありません。文字通り「理想と現実は違う」ということです。

だから、「理想通りに理想を叶えることはできない、現実と折り合いをつけながら理想を目指すことが必要なんだよ」という意味で解釈する必要があると思います。

現実を生きているのは自分だけではありません。周囲には多くの人が同時にいろいろな思いを抱えながら生きています。思い通りにいかないことだらけなのは当たり前です。

自分の理想を追うためには、周囲の現実を見ながら動くことが必要なのだと思います。現実を見ずに、現実において理想を実現するなんてそもそも不可能です。

理想ばかりを追い求めてしまうと、自分のエゴを強調し過ぎてしまい、周囲に阻まれ、結局何も叶えられずに挫折して終わってしまいます。自分の叶えたい理想があるのであれば、時に負けを認め、別の道を模索するのも必要なのではないでしょうか。

Netflixの映画で世界を変えられるか

この作品の最後は、アフガニスタンの実情を伝える雑誌の記事(つまり「ウォー・マシーン」のストーリー)を通して、国家の有力者に考えさせたかったというナレーションで締めくくられます。なぜアメリカは戦争を続けるのか、理想を追求しているのになぜ反米勢力を生むのかと。

しかし、雑誌の記事の内容はスキャンダル程度で終わり、有力者が考えるまでには至らなかったと語られます。

雑誌で考えさせられなかったことも、映画なら考えさせることができるかもしれません。

ブラピもそんなことを考えながら、Netflixと映画を作っていたのかななんて妄想しつつ、世界情勢について自分は勉強不足だなと反省しつつ、ブラピの徹底した変顔ぶりに尊敬の念を抱ける作品でした。

ウォー・マシーン:戦争は話術だ!(2017年/アメリカ)
監督:デヴィッド・ミショッド
出演:ブラッド・ピット、トファー・グレイス、アンソニー・ヘイズ、ジョン・マガロ、エモリー・コーエン、スクート・マクネイリー、ティルダ・スウィントン、ベン・キングスレー他