「タラレバ」「空想」「妄想」が大好きなあなたへ

皆さんはどんな空想をしたことがあるでしょうか?

いけてない上司をギャフンと言わせる?好きな人に堂々と話しかける?お金持ちになって豪遊する?

空想は、理想と現実にギャップがあるときに抱きやすくなると感じます。

「はっきりものが言えたらいいのに」「自分に自信が持てたらいいのに」など考えるときは、現実の自分と理想の自分が違うんですね。そして、空想をすることで、現実のフラストレーションを解消している気がします。

かくいう私も空想妄想が大好きでした。「ああだったらいいのに」「こうだったらいいのに」と考えるものの、現実の自分はそこからは途方もなく離れていて、空想することで自分を慰めて満足していました。空想って、現実と向き合うことから逃げて、うまくいかない自分を慰める抜群の処方箋なんですよね。

そんな空想癖のある人、まぁそこまで空想癖はないけど今話題の「タラレバ」話は嫌いじゃないわという人におすすめなのがこの映画「LIFE!」です。もちろんそれ以外の人も楽しめます。

一歩踏み出すことをためらい続けた男の大冒険

ベン・スティラーが監督、製作、主演を務めています。「ズーランダー」みたいな、どコメディではなく、ヒューマンドラマです。

主人公はウォルター・ミティという雑誌「LIFE」で働いている空想癖タラレバ大好きなパッとしない男性です。写真のネガの管理という地味な仕事をしています。リストラをするために派遣された新しい社員たちにはバカにされ、職場の気になる女性のことは見ているだけ。そんな何事にも踏み出せない日々の中で感じる不満は、「こうだったらいいのに」という空想をすることで解消しています。

そんなウォルターですが、雑誌「LIFE」が休刊することになり、最終号の表紙のネガの管理という大事な仕事を任されます。最終章の表紙を担当するのは、ウォルターを信頼する有名カメラマンであるショーン。そのショーンから最終号につかう写真のネガがウォルター宛に送られてきたのですが、なんと大事な表紙の写真のネガだけがないことが判明します。ウォルターは一気に窮地に立たされます。

カメラマンのショーンが「自身の最高傑作」という表紙の写真のネガの行方を明らかにするため、一歩踏み出すのをためらい続けていたウォルターは一念発起します。ショーンに会いに「冒険」へと旅立つのです。果たしてウォルターは最終号の「最高傑作」を見つけられるのか、そしてそれはどんな写真なのか…という物語です。

ストーリー、映像、音楽が鮮やかに楽しめる映画

この作品は、ストーリー、映像、音楽の三拍子揃って楽しめます。ベン・スティラーの映画は映像と音楽が印象的なんですが(「ズーランダー」で使われたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「Relax」とか頭を離れない)、それがより顕著に表れているのがこの作品です。

まず、ストーリーはなんといっても後味が良いです。観た後は、空想癖があって現実と向き合えていない自分に少し嫌悪感を抱きますが、それもプラスに変えてくれるくらい清々しい気持ちになれます。

作品の冒頭は、主人公の空想ばっかりでちょっとうんざりするんですね。でも、ちりばめられたピースが「冒険」の中でつながっていくのは推理小説のように面白いです。

次に、映像はとても色鮮やかで美しいです。ニューヨークからグリーンランド、アイスランド、アフガニスタンなど「冒険」の舞台は移っていくのですが、さすが「LIFE」と言いたくなるような風景写真の連続で圧倒されます。無機質な都会、歴代の表紙が色鮮やかな「LIFE」のオフィス、荒れた海、壮大な山。純粋に旅行に行きたくなります(サメと戦うのは勘弁ですが)。

最後に、音楽は壮大な映像にマッチしていて最高に素敵です。特にデヴィッド・ボウイの「Space Oddity」オブ・モンスターズ・アンド・メンの「Dirty Paws」は印象的に使われています。旅立ち、冒険にぴったり。仕事でのここ一番の大勝負の前に聴きたい曲リストに追加です。

ウォルターもネオも選んだのは「赤」。自分ならどうしますか?

この映画、こうやって説明していくと、「人生は一度きり、大冒険しよう!」みたいな内容に聞こえるかもしれませんが、実はちょっと違うんです。これは最後まで観るとわかります。

ウォルターがカメラマンのショーンに会いに行くあたりから、空想のシーンはゼロになります。まさしくこれはウォルターの変化を表しています。そしてラストでは、「冒険」は目の前の現実にあったことを教えてくれます。

遠い土地に旅行に行かなくたって、どこぞの部族に合わなくたって、壮大な任務に就かなくたって、行くべき場所、向き合うべき人、やるべき仕事は目の前にある、そう教えてくれるのです。そして、空想ではなく、現実に向き合うことが自分の人生を充実させる最も効果的な方法であると、ウォルターは示してくれます。

ウォルターの変化がもっとも顕著にわかるのが、カメラマンのショーンを探す過程でウォルターがレンタカーを借りるシーンです。ウォルターは、レンタカー係の人に赤と青の車を提示され、赤い車を選びます

映画好きの人ならわかりますよね?

そう、キアヌ・リーブス主演の「マトリックス」です。「マトリックス」では、キアヌ・リーブス演じるネオが赤いカプセルと青いカプセルを選ばされます。

赤いカプセルを飲めば「本当の現実世界を見ることができる」、青いカプセルを飲めば「今まで通り仮想現実の世界で生き続ける」

変わり始めたウォルターは迷わず赤い車を選びます。皆さんはどちらを選びますか?

こんな凝った演出で人生論を教えてくれる素敵な映画です。

LIFE!(2014年/アメリカ)
監督:ベン・スティラー
出演:ベン・スティラー、クリステン・ウィグ、シャーリー・マクレーン、ショーン・ペン他