混沌とした世界で思い出される作品とは
アメリカがトランプ政権になり、毎日その動向が見守られている中で、ある小説がアメリカのアマゾンの売り上げトップに返り咲きました。それがジョージ・オーウェルの小説「1984年」です。
ことの発端は、1月に開催されたドナルド・トランプの大統領就任式の参加者数に対する政府関係者の発言です。政府関係者は参加者数に関して、「史上最高だった」と発言しました。それに対して、「嘘ではないか」という声が上がると、「オルタナティブ・ファクト(もう1つの事実)だ」と政府関係者は返答したのです。事実を折り曲げて世論を言いくるめようとした政府と、60年前の名作に登場する情報をコントロールすることで国民を管理しようとした独裁政権が重なり、今回のトップ返り咲きになったのかもしれません。
「1984年」だけでなく、未来を描いた小説は私たちに多くの教えを残してくれています。そして、小説と同じように映画もまた然りです。映画は映像が伴われる分、よりインパクトを持って私たちに語りかけてくれます。世界が混沌としている今だからこそ、未来を憂いて生み出された作品を思い出す必要があるのではないでしょうか。
特に、未来を否定的に風刺して描いたディストピアの映画は、私たちが当たり前だと思っていることに「待った」をかけ、世界を客観視させてくれます。ディストピアとは、理想郷を意味するユートピアの反対語で、日本語では暗黒卿とも訳されます。全体主義的な政権の誕生や科学技術の進歩、情報化社会、それは本当に私たちの生活を恵まれたものにするのか、巻き込まれていては見えないものを客観的に考える時間を映画はくれる気がします。
今こそ見たいディストピア映画5選
ここでは、ディストピアを描いた映画を5つ選びました。いずれもトランプ政権を含む世界情勢を考えるきっかけになるはずです。
1.1984(1984年/イギリス)
先述したジョージ・オーウェルの小説「1984年」を映画化した作品です。2017年1月に亡くなったジョン・ハートが主演を務めています。近未来を舞台に、生活から思想まで全てを管理統制する全体主義の独裁政権の恐怖を描いています。「ビッグ・ブラザー」「ダブル・スピーク」などの言葉を生み出し、後世の世界中の文化に多大な影響を与えた名作です。「2+2=4と言える自由」という名言も多数で引用されています。
2.時計じかけのオレンジ(1971年/イギリス・アメリカ)
アンソニー・バージェスの小説をスタンリー・キューブリック監督が映画化しました。映画史に残るディストピア映画の傑作です。近未来の完全管理社会を舞台に、理不尽な暴力に明け暮れる青年アレックスが主人公です。彼が刑務所に投獄され、洗脳で受刑者を更生させる実験の被験者になり、全てを奪われていくさまを描きます。暴力の連続、救われないラスト、しかし気になって見てしまい、未来を考えさせられる映画です。
3.未来世紀ブラジル(1985年/イギリス)
テリー・ギリアム監督が夢と現実を交差させながら描いたディストピア映画です。異次元な映像体験ができるとカルト的な人気を誇っています。情報が完全に管理統制された世界で、政府機関である情報省がテロリストを誤認逮捕します。情報省に務める主人公サムはそれに抗議しますが、反対に捕まり拷問されてしまうという物語です。情報化社会を風刺した物語にも価値がありますが、物語の合間に描かれるサムの夢など幻想的な映像美にも魅了されます。
4.マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015年/オーストラリア・アメリカ)
ディストピアというと情報管理された近未来を描いた作品が多いですが、このマッドマックスシリーズは違います。同じディストピアでも核戦争勃発後の荒廃した世界を描いています。ただし、独裁者が暴力的に支配し混乱しているというのは通じている気がします。主人公が独裁者から人々を救う物語にはハラハラドキドキ、火炎放射付きのエレキギターが爆走するさまには圧倒されます。ディストピアも見たいし、少しスカッともしたいという人にオススメです。
5.ブレードランナー(1982年/アメリカ)
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最後は、これは外せないでしょうという傑作です。リドリー・スコット監督がフィリップ・K・ディックの小説「電気羊はアンドロイドの夢を見るか」を映画化しました。環境破壊がいきすぎた近未来の地球を舞台に、人間に紛れ込んだ人造人間レプリカントを追う捜査官デッカードの戦いを描きます。サイバーパンクの世界観、哲学的なストーリー、今見ても新鮮さが感じられ、私も大好きな作品です。2016年は遂に続編が公開となります。再びどんなディストピアの世界を見せてくれるのか、今から楽しみです。